早いもので東日本大震災の発生から1年が過ぎた。タリ、ジズ。今年も季節はめぐり、桜の季節が訪れた。しかし、桜を見る人の気持ちは同じではない。唐の劉希夷の詩を思い出した。
日本は、未だ大震災の傷跡が癒えているとは言えない状態だ。特に原子力事故の災害に遭った人々は、まだ放射能の恐怖に怯えている。特に、小さな子どもを持つ親たちは、子どもが大きくなって放射線の影響が出ないだろうかと不安な毎日を送っている。私も、事故当時の経済産業大臣として、子どもへの放射線の影響が気がかりだ。
そんな折、チェルノブイリに行って原発事故の傷跡を詳しく調査してきた人の話を聞いた。
チェルノブイリ事故では、急性被曝によって134人の作業員が腎不全などによって死亡し、この他に1986年から2000年までの間に6000人以上の子どもに甲状腺ガンが発生している。
子どもの甲状腺ガンは、どうしてこれだけ拡大したのか?様々な角度からの検証が必要だろうが、ウクライナの緊急事態省のホーロシャ長官は、「細胞分裂の盛んな子どもはミルクを大量に飲むが、チェルノブイリではミルクによる内部被ばくが問題になった」と発言している。チェルノブイリで事故後10日に決められた暫定基準では牛乳の規制値は、1キログラム当たりヨウ素3700ベクレルとなっている。事故後13年に決めた長期基準のセシウムは牛乳1キログラム当たり100ベクレルである。
一方、わが国の福島原発のケースでは、6日後に導入した暫定基準では、牛乳のヨウ素規制値は1キログラム当たり300ベクレル。1年後の長期基準ではセシウムの規制値は50ベクレルである。
この2つの数値を見て気付くことは、チェルノブイリの牛乳に対する規制の発表が遅すぎて、しかも基準値が甘すぎたということであろう。
その10日の間に、チェルノブイリの子どもたちは放射性物質に汚染された牛乳を飲み続けていたわけだ。これが体内に取り込まれて、後の甲状腺がんの原因になったと考えられる。
わが国の規制の時期も決して速かったとは言えないし、規制値もこれでよかったかどうかは議論のある所だろうが、少なくともチェルノブイリと比較すれば、日本の子どもが牛乳を通じて体内に取り込んだヨウ素やセシウムの量は少なかったことは事実だ。
私は日本の子どもたちが甲状腺ガンにかかる確率はチェルノブイリの子どもたちに比べて、低いと考えている。実際の結果は30年、40年後に現れることで、残念ながら、ここで、確かめることはできない。今できることは、原発事故の1日も早い収束と、2度と事故を起こさないようにすることだ。
衆議院議員 海江田万里