モンゴル版の民話に登場する、フフー・ナムジルという青年には、非常に仲の良い一心同体のような馬が一頭いた。
モンゴルの大草原を色々な所へ連れて行ってくれ、いつも一緒にいる、まさに自分の分身とも呼べる馬だった。
だが、そんなフフーを妬み恨む女性が、ある晩、大事にしていたフフーの馬を殺してしまった。
その、変わり果てた馬の姿にフフーは幾晩も涙を流し、悲しみに塞ぎ込んでいた。
しかし、悲しんでばかりいても馬は喜んではくれないだろうと、フフーはある決断をした。
それがモンゴルの民族楽器にもなっている『馬頭琴』作りである。
悲しみに明け暮れた後、フフーは気持ちを切り替え、木で馬の頭の形を彫刻し、長い棹(サオ)に繋いだ。
琴の要ともなる共鳴箱をその馬の皮で覆い、形を作る。弦は馬の尻尾で棹の上から下まで張り、弓も馬の尾で作った。
そして、フフーは作った馬頭琴で馬のいななきや走り方を演奏した。
ここで私は何とも切ないフフーの馬への深い愛情と想いを感じた。
(2007.12.7)