菅総理は突然、消費税の増税を打ち出し、これを勇気ある発言と評価する向きもありますが、私は経済の実態を知る一人として、今は増税の具体的なスケジュールや税率を云々する時期ではないと思っています。
先ず、現在の日本はデフレ経済の只中にあります。もちろん、昨年の春から続いた外需の拡大によって、デフレの圧力は徐々に薄らいではいますが、すでにデフレは克服されたとの認識を持つにいたってはいません。
先日発表になった日本銀行の『展望レポート(2010年7月)』によれば、「マクロ的な需給バランスが徐々に改善することなどから(物価は)下落幅が縮小し、2011年度中にはプラスの領域に入る可能性が展望できる」とあります。一般的に日銀は物価の下落については、これまでも楽観的な見方をしていましたから、この見通しが正しいとはにわかに考えられませんが、その日銀でさえ、デフレにストップがかかるのは、どんなに早くても2011年度だと告白しているのです。
また同レポートを取りまとめるに当たっての、日本銀行の政策委員の2010年度、2011年度の実質GDPの見通しは、2010年度がプラス2・6%なのに対して2011年度はプラス1・9%としています。しかも、同じレポートの今年4月の時点の予想では2011年度の成長率はプラス2・0%となっていましたから、7月にはそれを0・1%下方修正したことになります。つまりわが国の景気の先行きについて、今年の後半から、いわゆる『踊り場』に入るのではとの見方が急速に拡がっているのが現状です。
その理由はいくつか考えられます。ひとつは最近、中国の成長が、徐々に減速し始めたことです。現在の日本の輸出は中国を始めとしたアジアの新興国の成長に引っ張られている部分が大きいですから、中国経済の減速は日本の輸出に直接影響を与えます。アメリカもこれまでは景気刺激策で何とか成長を維持してきましたが、財政の下支えが難しくなり、景気回復にブレーキがかかっています。
財政の下支えということでは、わが国の場合も事情は同じです。これまでのエコカー減税、エコポイント制度もそろそろ期限が近づいています。これらの期限を延長させるためには今年度予算の補正を組まなければなりませんが、政府は来年度予算の概算要求に手一杯で、現在までのところ補正予算の声はどこからもあがっていません。
消費税の議論はもちろん必要です。私も消費税の議論をしてはならないと言っているのではありませんが、具体的な税率や実施時期を述べるのは、時期尚早です。日本経済は、一時期の危機的な状況を脱しましたが、まだまだ完全な健康体になったかといえばそうではありません。病気で言えば緊急治療室は出ることが許されましたが、まだ一般病棟に入院中というのがホントのところでしょう。
「消費税はいつか上げなければならないのだから、早く増税したほうが、それまでに消費も拡大して景気を上向かせる」と考える人がいますが、これは大きな間違いです。たしかに消費税増税前の駆け込みで消費は一時的に拡大するかも知れません。しかし、これはあくまで、需要の先取りですから、実際に消費税が増税された後には、消費が大きく落ち込みます。1997年に橋本内閣が消費税の税率を5%にアップしたときがそうでした。その後の経済は消費税増税の大波をもろに受けて、急激に後退しました。私たちはこの轍を踏んではなりません。
(2010年7月20日 記)
衆議院議員 海江田万里 |