■ 内需拡大の柱は住宅需要の刺激。住宅ローン控除の改正■
■リバースモーゲージの普及など、生活に身近な住宅問題の再考を■
★内需拡大に向けた抜本的な政策を考える時 ★
急激な円高で輸出産業は悲鳴を上げています。今は、円高へのスピードが速まらないような手当てをしても、ユーロ圏では財政危機によるユーロ安、アメリカでは輸出振興のためのドル安という事情がある限り、円高の流れは止まらないと思います。そこで、以前から言われているように、いよいよ内需拡大に向けた抜本的な政策を考えなければならない時です。言うまでもなく内需拡大は、現在のわが国の喫緊の課題である需要不足によるデフレの克服にも役立ちます。
私は、内需拡大の柱は、住宅需要を刺激することだと考えています。政府は8月に定めた緊急経済対策で、この12月に期限切れになる「住宅版エコポイント」を来年以降も継続することを決定しました。住宅版エコポイント制度は利用額が30万円と少ないことなどが指摘されていますが、先ずは継続を決めて、それから来年度の予算で増額するかどうかを議論することになるでしょう。
住宅を内需の柱にするためには、税制を始めとした各種の制度の見直しが必要です。住宅税制で最初に思い出すのが、「住宅ローン控除」でしょう。もちろん、住宅取得控除は今後も維持しなければなりませんが、問題はその中味です。
現在の制度は、経済が右肩上がりで、住宅価格も上昇し、賃金も上がっていくという背景があり、住宅を取得した人は最初の数年間、ローンの返済などの負担が厳しいから、その分税金で面倒見ようという発想です。ところが現在は、給料は上がらないし、手に入れた住宅の価格も値上がりするとは限らないですから、住宅を取得した人は最初の数年だけではなく、ローンを返し終わるまで生活は厳しい状況です。
今は歴史的な超低金利になっていますから、住宅ローンを利用するチャンスです。しかし、実際にローンの契約をするとなると、将来金利が上がったらどうしようとの不安があります。そこで考えられる住宅取得控除の改正は、現行のローン残高の一定割合を一定期間「税額控除」する方式を改め、ローンの返済額のうち金利相当分を、ローンを完済するまで「所得控除」する内容に改めるというものです。金利の上昇は個人ではどうすることもできないリスクですから、そのリスクを国が税制で負担するという考えはアメリカなどでは当たり前になっています。
また、現在の住宅取得控除は、居住用住宅1軒となっていますが、セカンドハウスもその利用が可能になるようにすべきです。先日訪問したギリシャでは、国民の持ち家は80%と高率で、その60%の人々が、セカンドハウスを保有しているそうです。国の財布は空っぽでも国民は豊かな生活をしているのが実際です。
★土地は所有するものではなく利用するものという意識を ★
国民の土地に対する意識改革も必要です。以前よりだいぶ変化はありますが、国民の土地信仰はまだまだ根強いものがあります。しかし、私は、土地は所有するものではなく利用するものと考えています。土地は借地にし、その上の建物を所有するという考えをもっと推進すべきです。こうして土地に払う金額が安くなれば、その分建物にお金をかけられます。これまでのように5000万円の住宅でも、土地代3000万円、建物2000万円という計算の土地代と建物代を逆転させなければなりません。
土地に支払う資金はお金の循環という意味では、流れがストップしてしまいます。しかし、建物の資金は、それこそ建築業者を始めとして、各種の業種にお金が回り、経済活性化の効果が大きくなります。こうした考えを後押しするためには、定期借地権の法律をもっと使い勝手がよくなるように改正する必要があります。
★ リバースモーゲージの活用が私的年金を生み出す ★
建物は所有すべきだと考える理由は、建物を担保にリバースモゲージを利用する方法があるからです。リバースモゲージについては、すでにこの連載でも何度か書きましたからよく理解されていると思いますが、住宅を担保に老後の資金の融資を受けるものです。
例えば、65歳で最初の住宅ローンを全部返し終わったとします。それからの夫婦の残りの人生を20年と仮定して、20年後のその住宅の価値が仮に1000万円とするならば、20年間、毎月4万円余りの資金を借りられることになります。住宅の価値が20年後でも2000万円あれば、毎月の金額は2倍の8万円になることは言うまでもないでしょう。
こうしたリバースモゲージの資金が、公的年金の不足分を埋める私的年金になるのです。これまで住宅を私的年金に活用するには、マイホームのほかにもうひとつ賃貸用の住宅を手に入れなければなりませんでしたが、このリバースモゲージの方法なら、自宅があれば、そこから私的年金が生み出されるのです。
もちろん、そのためには住宅が100年くらいはもつように設計、建設されていなければなりません。日本の住宅は平均すると約30年で、取り壊される運命のようですが、建てては壊す現在のやり方は資源の無駄遣いです。住宅メーカーや建築業者には、ぜひ100年住宅を建ててもらい、そうした長期使用に耐える住宅を購入した場合には、消費税を軽減するくらいの優遇があってしかるべきです。
これまで世界第2位の経済大国であった日本の住宅事情が、現状のような有様では、本当に恥ずかしいとかねてから思っていましたが、日本をもう一度元気にするのは、私たちの生活に一番身近な住宅問題について、国民全体で考えてみることが必要でしょう。
(2010.9.22記) 衆議院議員 海江田万里
|